ただ、項目を覚えるのと、現場で何が起きているかを知るのとは別です。毎朝点呼を受け、遠隔地からは電話で報告し、帰庫すれば業務後点呼を受ける。その繰り返しのなかで見えるものと、管理する立場から見えるものは違います。この記事では、点呼で実際に何が確認されるのかを、法令の根拠とあわせて書きます。試験対策としても、これから運行管理者になる方にも役立つはずです。
📑 このページの内容
🚌受ける側から見た点呼
運転者にとっての点呼は、出庫前の数分間の手続きです。営業所に入り、運行管理者の前に立ち、免許証を提示し、アルコール検知器を吹き、日常点検の結果を報告して、その日の運行についての指示を受ける。慣れれば3分から5分で終わります。
出庫までの流れ
点呼そのものは短くても、その前後には必ず作業があります。貸切バスの朝は、おおむね次のように進みます。
| 場面 | 行うこと |
|---|---|
| 出社 | 制服に着替え、運行指示書を受け取る。行程・集合場所・旅客数・注意点を確認 |
| 日常点検 | 灯火類、タイヤの空気圧と溝、ブレーキの効き、オイルや冷却水の量などを確認 |
| 点呼 | アルコール検知器による測定、体調の申告、点検結果の報告、運行管理者からの指示 |
| 出庫 | 集合場所へ向けて出発。回送の時間も運転時間に含まれる |
「異常なし」と答えるほうが楽な構造がある
点呼で運転者が答える項目のうち、判断が難しいのは体調に関するものです。とくに睡眠不足は、本人にしか分かりません。
ここには構造的な難しさがあります。正直に「あまり眠れていません」と答えれば、乗務を止められる可能性がある。その日の運行が飛べば、代わりの運転者を探す手間が発生し、旅客を待たせることになります。自分の一言で周囲が動くと分かっていると、言い出しにくくなるのは自然なことです。
結果として、多少の寝不足なら「大丈夫です」と答えてしまう。運転者側から見れば、そのほうが波風が立たないからです。この構造がある限り、点呼の項目を増やしても実効性は上がりません。
止められた場面を見て、意味が変わった
点呼で乗務を止められる場面に出くわすことがあります。前夜の飲酒が残っていた人、明らかに体調が悪いのに出ようとした人。そういう場面を見ると、この数分間が何のためにあるのかが腑に落ちます。
止められた本人にとっては、その場では気まずいものです。ただ、そのまま出庫していたらどうなっていたかを考えれば、止めた側の判断が正しかったことは後から分かります。
点呼は「異常がないことを確認する手続き」ではなく、異常があったときに出庫させないための手続きです。異常がない日が9割以上でも、残りの1回を止められれば意味があります。
📋業務前点呼で確認される3つのこと
旅客自動車運送事業運輸規則により、業務前点呼で確認しなければならないのは次の3つです。
| 確認事項 | 現場で実際に行われること |
|---|---|
| 酒気帯びの有無 | アルコール検知器による測定と、目視等による確認(顔色、呼気、態度) |
| 疾病、疲労、睡眠不足その他安全な運転をすることができないおそれの有無 | 体調の申告、前夜の睡眠時間の確認、顔色や受け答えの様子の観察 |
| 日常点検の実施又はその確認の状況 | 点検の実施報告。異常があれば整備管理者へつなぐ |
これに加えて、運行の安全を確保するために必要な指示を与えます。運行経路と注意箇所、気象・道路状況、当日の運行に固有の注意点などです。
「睡眠不足」が確認事項に入っている意味
2018年6月の改正で、確認事項に「睡眠不足」が明記されました。それまでは「疾病、疲労その他の理由」だったものに、睡眠不足が加わったのです。
先に書いたとおり、運転者にとって睡眠不足は申告しにくい項目です。それでも確認事項として明記されたのは、居眠り運転による事故が繰り返されてきたからです。疲労は本人の自覚があっても、睡眠不足は「寝たつもり」で見過ごされやすい。確認事項に書き込むことで、運行管理者が必ず聞かなければならない項目になりました。
業務前点呼の確認事項に「日常点検の状況」が含まれるのは業務前だけです。業務後点呼には含まれません。逆に「自動車、道路及び運行の状況」「交替運転者に対する通告」は業務後だけの事項です。「酒気帯びの有無」は業務前点呼と業務後点呼の事項で、業務途中点呼の確認事項には入っていません。
🍺アルコール検知器はどう使われるか
アルコール検知器は営業所ごとに備え、常時有効に保持しなければなりません。「常時有効に保持」とは、正常に作動し、故障がない状態を保つことです。毎日の作動確認と、定期的な故障の有無の確認が必要になります。
数値が出なければ乗務してよい、ではない
ここは誤解が非常に多い部分です。整理しておきます。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 道路交通法の 「酒気帯び運転」 | 呼気1リットル中0.15mg以上(又は血液1mL中0.3mg以上)が処罰の対象となる数値基準。運転者本人が刑事罰・行政処分を受けるかどうかの基準 |
| 運輸規則の 「乗務させてはならない」義務 | 事業者・運行管理者は、酒気を帯びた状態にある乗務員等を乗務させてはならない。数値基準はない |
つまり、0.15mg/Lは道路交通法上の処罰の基準であって、運行管理上の乗務可否の基準ではありません。検知器の検査結果その他から酒気を帯びていると認められれば、0.15mg/L未満であっても乗務させることはできません。
現場では、微量でも検出されればまず出庫できません。数値がゼロでも顔が赤い、においがするといった場合には、時間をおいて再測定することもあります。
体重や体質によりますが、ビール500mL程度でも分解にはおおむね3〜4時間かかるとされます。深夜まで飲んで早朝に出庫すれば、当然残ります。運転者側の自己管理として、出庫時刻から逆算して飲酒を切り上げる習慣が要ります。「寝れば抜ける」は通用しません。
📞業務途中点呼は、なぜ必要なのか
旅客の業務途中点呼が必要になるのは、一般貸切旅客自動車運送事業者が夜間において長距離の運行を行う場合です(旅客自動車運送事業運輸規則第24条第3項)。業務の途中で少なくとも1回行います。
「夜間において長距離の運行」とは、通達で実車運行区間の距離が100kmを超え、かつ実車運行の開始又は終了の時刻が午前2時から午前4時の間にあるか、その時刻をまたぐ運行と定義されています。回送区間は実車運行に含みません。
確認するのは2つ
- 当該業務に係る自動車、道路及び運行の状況
- 疾病、疲労、睡眠不足その他安全な運転をすることができないおそれの有無
これに加えて、運行の安全を確保するために必要な指示を与えます。業務前点呼にあった「日常点検の状況」は入りません。すでに運行が始まっているためです。
第24条第3項の各号に酒気帯びの有無は含まれていません。酒気帯びの確認は第1項(業務前)と第2項(業務後)の事項で、アルコール検知器の使用義務を定めた第4項も第1項・第2項に対応しています。
また、「業務前・業務後のいずれも対面でできない場合」は貨物の中間点呼(貨物自動車運送事業輸送安全規則第7条第3項)の要件です。貨物向けの教材をそのまま覚えると、ここで失点します。
携帯型の検知器を持って出る
業務前点呼と業務後点呼を対面で行えない場合でも、酒気帯びの確認にはアルコール検知器の使用が必要です。そのため、泊まりの運行では携帯型の検知器を車両に積んでいきます。
検査を行うのは宿泊地への到着後と、翌朝の出発前の2回です。到着後に測定するのは、その日の運行が終わった時点の状態を確認するためで、出発前の測定は翌日の乗務に向けたものです。
近年は通信機能を備えた検知器が普及しており、検査結果が顔写真と位置情報とあわせてオンラインで営業所に送信されます。誰が、どこで、いつ測定したのかがデータとして残るため、本人以外が吹く、営業所に着いてから測るといった不正が事実上できなくなりました。電話で口頭の数値を伝えるだけだった頃と比べると、記録の確かさがまったく違います。
貸切バスでは、業務途中点呼の要否を判定する基準が具体的に定められています。実車距離が100kmを超え、かつ実車運行の開始又は終了の時刻が午前2時から午前4時にある運行(その時刻をまたぐ運行を含む)が対象です。回送距離は含みません。単に夜間を含むだけでは該当しない点に注意してください。
🏁業務後点呼で聞かれること
帰庫したら業務後点呼です。確認事項は次の3つ。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 自動車、道路及び運行の状況 | 車両に異常はなかったか、通行止めや工事はなかったか、遅延やヒヤリとした場面はなかったか |
| 交替運転者に対する通告 | 交替した場合、次の運転者に伝えた内容 |
| 酒気帯びの有無 | 業務前と同じくアルコール検知器を使用 |
「終わってからも吹くのか」と思っていた
運転者だった頃、業務後の検知にはあまり意味を感じていませんでした。もう運転は終わっているからです。
ただ、これは運行中に飲酒していないことの確認でもあります。泊まりの運行で、翌日も運転があるのに前夜に飲んでしまう、といったことを防ぐ意味もあります。制度として両端を押さえているわけです。
もうひとつ、業務後点呼で聞かれる「運行の状況」は、実は重要な情報源です。「あの交差点は右折が見にくい」「あのサービスエリアは大型が停めにくい」といった話が、次の運行計画に反映されます。形式的に「異常なし」で済ませると、この情報が失われます。
📝記録に何が残るのか
点呼を行ったら、その内容を記録し、保存しなければなりません。記録する項目は次のとおりです。
- 点呼執行者名/運転者名
- 業務に係る事業用自動車の自動車登録番号又は識別できる記号、番号等
- 点呼日時/点呼方法(アルコール検知器の使用の有無、対面によらない場合は具体的方法)
- 酒気帯びの有無
- 疾病、疲労、睡眠不足その他安全な運転をすることができないおそれの有無(業務前・業務途中)
- 日常点検の状況(業務前)
- 自動車、道路及び運行の状況/交替運転者に対する通告(業務後)
- 指示事項/その他必要な事項
保存期間は2024年4月から変わった
一般貸切旅客自動車運送事業者については、2024年4月から点呼記録・業務記録・運行指示書・運送引受書の保存期間が1年間から3年間に延長されました。点呼時の録音・録画のデータやアルコール検査時の写真は90日間の保存です。
記録は監査のためだけのものではありません。事故が起きたとき、点呼を適切に行っていたことを証明できるのは記録だけです。逆に記録がなければ、実際に行っていても「行っていない」と扱われます。書類が会社と運転者を守るという実感は、管理する側になってから強くなりました。
🔍する側になって分かったこと
現在は運行管理者の資格を持ち、車両管理の実務に携わっています。受ける側だった頃には見えていなかったことが、いくつもありました。
① 「異常なし」を確認するのが仕事ではない
点呼で毎日「異常なし」が続くと、確認そのものが流れ作業になります。しかし本当の役割は、異常があるかもしれないという前提で見ることです。いつもと声の調子が違う、返事が遅い、目を合わせない。数値に出ない情報のほうが多いくらいです。
② 乗務させない判断は、その場では歓迎されない
乗務を止めれば、代わりの運転者を探さなければなりません。旅客が待っています。会社にも損害が出ます。その場では誰からも感謝されない判断です。
それでも止めなければならないのは、止めなかった場合の結果が取り返しのつかないものだからです。この判断ができる体制を平素から作っておくこと、つまり代替要員を確保できるようにしておくことが、運行管理者の準備の中身だと考えるようになりました。
③ 申告しやすい環境をつくるのも業務のうち
運転者が体調不良を言い出せない職場では、点呼は機能しません。「言ったら仕事を外される」と思われた時点で、正直な申告は出てこなくなります。
制度としての点呼は法令に書いてありますが、それが機能するかどうかは、日頃の関係のほうに依存します。ここは試験には出ませんが、実務では最も重要な部分だと思います。
✍️試験ではどう問われるか
運行管理者(旅客)試験では、点呼は道路運送法の分野から毎回のように出題されます。よく問われる論点を挙げます。
確認事項の入れ替え
業務前の事項と業務後の事項を入れ替えて出す形が最も多いパターンです。「日常点検の状況=業務前だけ」「交替運転者に対する通告=業務後だけ」「酒気帯びの有無=業務前と業務後」「自動車、道路及び運行の状況=業務後と業務途中」。この4点を押さえれば大半が解けます。
対面によらない点呼の可否
点呼は対面が原則で、運行上やむを得ない場合に限り電話その他の方法によることができます。「運転者が希望した場合」「運行管理者が多忙な場合」は理由になりません。
遠隔点呼・自動点呼
近年の改正で制度化された論点です。遠隔点呼は要件を満たして届け出れば実施でき、かつての IT点呼のように「優良な営業所であること」は要件ではありません。自動点呼は、業務後が令和5年1月から、業務前が令和7年4月30日から制度化されています。
補助者の扱い
補助者が行える点呼は、1営業所での総回数の3分の2以下です。運行管理者が少なくとも3分の1以上を行わなければなりません。また、補助者の選任・解任の届出が必要なのは一般貸切旅客自動車運送事業者だけで、一般乗合・一般乗用では不要です。
点呼の項目は、「その時点で何が分かるか」で考えると自然に整理できます。出庫前だから日常点検の結果が分かる。帰庫後だから道路と運行の状況が分かる。酒気帯びはいつでも確認できる。丸暗記より、この理屈で押さえたほうが忘れません。
📌まとめ
- 業務前点呼の確認事項は「酒気帯び」「疾病・疲労・睡眠不足等」「日常点検の状況」の3つ
- 業務後点呼は「自動車・道路・運行の状況」「交替運転者への通告」「酒気帯び」の3つ
- 業務途中点呼は、一般貸切が夜間に長距離の運行を行うときに、業務の途中で少なくとも1回。確認するのは運行の状況と疾病・疲労・睡眠不足等で、酒気帯びは入らない
- 0.15mg/Lは道路交通法で処罰されるかどうかの基準。運行管理では基準となる数値が定められておらず、検知器の結果などから酒気を帯びていると判断されれば、数値がこれを下回っていても乗務させてはならない
- 貸切バスの点呼記録の保存期間は、2024年4月から3年間
- 点呼は「異常なしを確認する手続き」ではなく「異常があったときに止めるための手続き」
試験対策としては項目の暗記で足りますが、実際に運行管理者になれば、止める判断ができるかどうかが問われます。その判断を支えるのは、日頃から代替要員を確保しておく準備と、運転者が正直に申告できる関係です。制度の裏側にあるものまで含めて理解しておくと、記憶にも残りやすくなると思います。
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