キャリア

バス運転手が収入を上げる方法は、
体力以外にあるのか

10年走った運転士が、運行管理者を取るまでに考えたこと
最終更新日:2026年8月17日
給料を上げたい。でも、これ以上どう働けばいいのか分からない。

運転職で長く働いていると、多くの人が一度はこの壁に突き当たります。走れば走るほど稼げるという仕事ではないからです。拘束時間には法律の上限があり、その先は物理的に働けません。

筆者は貸切バス会社に11年間在籍し、そのうち10年は大型二種免許でバスを運転していました。その間ずっと転職も考え続けていましたが、最終的に選んだのは資格を取ることでした。この記事では、そこに至るまでに何を考え、取得後に実際どう変わったのかを書きます。

📉運転職の収入には天井がある

まず、なぜ運転職で収入を上げるのが難しいのかを整理します。理由は主に3つです。

① 拘束時間に法律の上限がある

バス運転者の労働時間は、改善基準告示という厚生労働大臣の告示で細かく決められています。2024年4月の改正後は、次のような上限があります。

項目上限
1日の拘束時間原則13時間以内(延長しても最大15時間)
1ヵ月の拘束時間281時間以内(労使協定で294時間まで)
1年の拘束時間3,300時間以内(労使協定で3,400時間まで)
運転時間2日平均で1日9時間以内
休息期間継続11時間以上が基本、9時間を下回らない

つまり、「もっと働いて稼ぐ」という選択肢が法律で塞がれているのが運転職です。頑張って早出をしても、その分どこかで休息期間を確保しなければなりません。1ヵ月の総枠が決まっている以上、月収の上限もおのずと決まります。

この規制は運転者の命を守るためのもので、必要なものです。実際、拘束時間が守られていない会社では事故のリスクが上がります。ただ、収入という側面から見れば天井として働くのも事実です。

② 副業の時間を確保しづらい

「本業で上限があるなら副業を」と考えるのは自然ですが、運転職ではこれが難しい。

  • 勤務が不規則で、決まった曜日・時間に別の仕事を入れられない
  • 拘束時間が長く、帰宅後に働く体力が残らない
  • そもそも副業をすると、休息期間の趣旨に反する(安全運転に支障が出る)

3つ目は見落とされがちですが重要です。休息期間は「次の勤務に備えて休むための時間」です。そこで別の仕事をすれば、疲労を抱えたままハンドルを握ることになります。会社が副業を認めていない場合が多いのも、これが理由です。

③ 歩合の伸びしろが限られる

タクシーのように歩合の比率が高い職種では、腕次第で収入を伸ばせる余地があります。しかしそれでも、走行できる時間の上限は同じです。地域の需要にも左右されます。

貸切バスの場合は、そもそも歩合という考え方が薄く、乗務手当や泊まり手当の積み上げが中心です。繁忙期に手当が増えても、閑散期には減ります。

👉 つまり、どういうことか
運転職の収入は「時間 × 単価」で決まりますが、時間の側は法律で上限が固定されている。だとすれば、収入を上げるには単価を上げるか、時間の使い方そのものを変えるかしかありません。

🔍よく挙がる選択肢を検討してみる

実際に筆者が考えた選択肢と、それぞれの限界を挙げます。正直に言えば、転職は在籍中ずっと考えていました。「このままでいいのか」という思いは、11年間ずっと頭の片隅にありました。

選択肢1:条件のいい会社に転職する

最も分かりやすい方法です。実際、同じ大型二種でも会社によって年収は変わります。路線バス、高速バス、貸切、送迎など、業態によっても差があります。

ただし、次の点に注意が必要です。

  • 求人票の年収は繁忙期込みの数字であることが多い。閑散期を含めた実態と乖離する場合がある
  • 好条件の会社ほど拘束時間も長い傾向がある。時給換算すると変わらないことも
  • 勤続年数がリセットされ、退職金や有給の面で不利になる

転職自体を否定するつもりはありません。明らかに労働環境が悪い会社にいるなら、移るべきです。ただ「収入を上げる手段」として見ると、上限そのものは変わらないという点は押さえておくべきだと思います。

選択肢2:より上位の免許を取る

大型二種を持っていない方にとっては、有力な選択肢です。運転できる車両の幅が広がり、就ける仕事が増えます。

ただし、すでに大型二種を持っている場合、その先はけん引二種など特殊な方向になり、求人がほとんどありません。免許の階段は途中で終わるのです。

選択肢3:夜行・長距離の専属になる

手当が厚くなるので、短期的には収入が上がります。しかし、

  • 生活リズムが崩れ、健康を損ないやすい
  • 年齢を重ねると続けられなくなる
  • 結局は拘束時間の上限に当たる

体力を前借りしているだけ、という側面があります。40代、50代と続けられる方法かを考えると、持続性に疑問が残ります。

選択肢4:資格を取る

そして残ったのがこれでした。運転以外の役割に就ける可能性を作るという方向です。

筆者の会社では、主に次の資格が推奨されていました。

資格業界での位置づけ
運行管理者(旅客)営業所ごとに選任義務がある必須資格。運転以外の職種への道が開ける
危険物取扱者 乙種第4類自社給油設備がある会社で必要。車両管理部門で評価される
国内旅行業務取扱管理者自社で旅行商品を企画・販売している会社で活きる
衛生管理者従業員50人以上の事業所で選任が必要

このうち、最初に「取ってこい」と言われたのが運行管理者(旅客)でした。それだけ会社にとって優先度が高い資格ということです。

🎯なぜ運行管理者を選んだのか

運転職は、頑張って走った分だけ収入が増えるという単純な世界ではない。
だとすれば、手を動かす以外の方法を探すしかない。

この結論に至ったとき、運行管理者を選んだ理由は3つあります。

理由1:どの営業所にも必ず必要な人材だから

運行管理者は、道路運送法で営業所ごとに選任が義務づけられている資格です。一般乗合(路線バス)、一般貸切(観光バス)、一般乗用(タクシー)のいずれでも必要になります。

選任すべき人数は「事業用自動車の数÷40(1未満切捨て)+1」で計算するので、車両が増えれば必要な人数も増えます。会社にとって、資格者は多いほうがいいのです。

「取っておけば必ず使い道がある」という点で、他の資格とは性質が違いました。

理由2:運転以外の仕事に就く道が開けるから

資格があれば、運行管理の部署に異動できる可能性が出てきます。実際には資格だけで異動できるわけではありませんが、候補に入るかどうかは大きな差です。

年齢を重ねて長距離が厳しくなったとき、選択肢があるのとないのとでは、将来の見通しがまったく違います。

理由3:業界内での転職にも効くから

転職を考え続けていたと書きましたが、資格を取ってからはその意味合いが変わりました。「運転手として転職する」から「運行管理者の有資格者として転職する」に変わったからです。

求人票を見ていても、運行管理者の資格を歓迎条件や必須条件にしているものは多くあります。持っているだけで応募できる求人の幅が広がります。

👉 きっかけは会社からの指示だった
正直に言うと、最初は会社から「受けてくれ」と言われたのがきっかけです。受験料も会社が出してくれました。
ただ、受けると決めてからは自分の意思で取り組みました。会社のお金で受ける以上、落ちるわけにはいかない——大型二種のときと同じで、この「逃げられない環境」が背中を押してくれた面もあります。
もし会社が費用を負担してくれる制度があるなら、使わない手はありません。まず総務や上司に確認してみてください。

📈取得後、実際に変わったこと

ここが一番気になるところだと思います。正直に書きます。

変化1:資格手当が付いた

運行管理者の資格に対して、資格手当が支給されるようになりました。金額は会社によって差がありますが、毎月の固定給に上乗せされるので、年間で見るとまとまった額になります。

重要なのは、これが「働いた時間に比例しない収入」だという点です。拘束時間の上限に関係なく、資格を持っているだけで発生します。前の章で書いた「時間の天井」を回避できる、数少ない方法のひとつです。

⚠️ 会社によって差があります
資格手当の有無や金額は、会社の規定によります。手当がない会社もあれば、選任されて初めて支給される会社もあります。転職や就職の際は、求人票や就業規則で「資格手当」の項目を確認することをおすすめします。

変化2:役職が変わった

資格を取ったあと、役職が変わりました。運転業務だけを担当していた頃とは、任される仕事の範囲が変わっています。

ここで実感したのは、資格そのものより「資格を取った」という事実が評価されたという面です。運転職の世界は実力と経験がものを言いますが、それは外から見えにくい。資格は「この人は勉強する人だ」ということを数字で示せる、数少ない手段でした。

変化3:仕事に対する理解が深まった

これが一番大きかったかもしれません。

それまで何となくやっていたことの意味が、勉強を通じてはっきり分かるようになりました。

  • 点呼|なぜ毎回同じことを聞かれるのか。アルコール検知器の数値が基準未満でも乗務できないのはなぜか
  • 運行指示書|貸切バスだけ運行ごとに作成が必要な理由
  • 拘束時間|配車担当がなぜあれほど時間を気にしていたのか
  • 記録の保存|点呼記録や業務記録を1年間(一般貸切は3年間)保存する意味

運転者として言われるがままにやっていたことが、法令上の根拠を持った行為として理解できるようになりました。そうなると、運行管理者から指示を受けたときの受け取り方も変わります。「面倒なことを言われている」ではなく「こういう理由で必要なんだな」と分かる。

これは収入とは直接関係ありませんが、仕事のストレスがかなり減りました。理由が分からないまま従うことほど、気持ちがすり減ることはありません。

💡 予想していなかった効果 資格を取る前は、手当や役職といった目に見える変化しか考えていませんでした。しかし実際に一番価値があったのは、毎日の仕事が理解できるようになったことでした。

点呼で「体調はどうですか」と聞かれる意味、繁忙期に無理な運行を組まれない理由、事故が起きたときに何を最優先すべきか。これらが分かっていると、運転者としての判断も変わります。資格の勉強は、そのまま安全運転の勉強でもあったと今は思います。

⚖️向いている人・向かない人

誰にでもおすすめできるわけではありません。正直に書きます。

向いている人

  • 将来、運転以外の仕事も視野に入れたい人|体力面の不安がある方、年齢を重ねてからの働き方を考えている方
  • 会社が受験料を出してくれる人|負担ゼロで挑戦できるなら、取らない理由がありません
  • 今の仕事の「なぜ」を知りたい人|理解が深まる効果は、想像以上に大きいです
  • 業界内での転職を考えている人|応募できる求人の幅が広がります

向かないかもしれない人

  • すぐに収入を上げたい人|試験は年2回(8月頃・3月頃)で、勉強期間も含めると数ヵ月〜半年かかります。即効性はありません
  • 資格手当がない会社にいて、異動の見込みもない人|取得しても直接の収入増につながらない可能性があります。ただし転職時には効きます
  • とにかく運転だけをしていたい人|運行管理の仕事は、シフト作成や記録管理、点呼など事務的な業務が中心です。デスクワークが苦手なら、慎重に考えたほうがいいかもしれません
👉 判断の目安
「今すぐ月収を上げたい」なら、資格より転職や勤務形態の見直しのほうが早いです。
「5年後、10年後の選択肢を増やしたい」なら、資格のほうが確実です。どちらを求めているかで答えが変わります。

🚀今から始めるなら(オンライン講習の登場)

まず受験資格を確認する

運行管理者試験は誰でも受けられるわけではありません。次のどちらかを満たす必要があります。

  • 運行管理に関し1年以上の実務経験があること
  • 基礎講習を修了していること(試験日の2週間前までに修了予定でも可)
⚠️ 運転歴は実務経験にならない場合があります
「バスを10年運転しているから実務経験は十分」と考えがちですが、受験資格になるのは「運行の管理」に関する実務経験です。運転業務そのものは含まれない場合があります。
判断に迷うなら、基礎講習を受けるルートのほうが確実です。

基礎講習がオンラインで受けられるようになった

ここが、以前と大きく変わった点です。

筆者が受験した当時は、会場に3日間通う必要があると思っていました。平日に3日間、仕事を休んで通うのは簡単ではありません。これが受験をためらう理由になっている方も多いはずです。

しかし現在は、eラーニングでの受講が可能になっています。自動車事故対策機構(NASVA)が提供する「eナスバ」という仕組みで、2024年12月から始まりました。

項目内容
受講場所自宅・職場など、インターネット環境があればどこでも
受講期間申込み後の一定期間内(おおむね30日間)
受講方法期間内なら好きな時間に視聴可能。繰り返し視聴もできる
費用基礎講習は9,560円程度(税込・テキスト送料含む)

つまり、会場に通わなくても受講できるようになりました。待機時間や休憩時間、非番の日など、まとまらない空き時間を使って進められます。運転職の勤務形態と相性がいい仕組みです。

👉 確認しておきたいこと
講習の種類は「旅客」を選ぶ|貨物の基礎講習では旅客試験の受験資格になりません
視聴には確認の仕組みがある|流し見では修了できない設計になっています
・費用や実施期間は変更される場合があります。申込み前にNASVA公式サイトで最新情報を確認してください

試験までの流れ

  • 受験資格を確認(実務経験 or 基礎講習)
  • 受験申請|年2回、申請期間は1ヵ月程度。逃すと次は半年後
  • CBT試験を受験|テストセンターのパソコンで受験。会場と日時を選べる
  • 合格後、資格者証の交付申請合格発表から3ヵ月以内。過ぎると合格が無効になります

詳しい手順は運行管理者になるにはのページにまとめています。勉強法については試験の難易度と勉強法をご覧ください。

📝まとめ

  • 運転職の収入には拘束時間という法律上の天井がある。時間を増やして稼ぐ方法は塞がれている
  • 転職・上位免許・夜行専属といった選択肢はあるが、いずれも上限そのものは変えられない
  • 運行管理者は営業所ごとに選任義務があるため、資格者は常に必要とされる
  • 取得後、資格手当が付き、役職が変わった。手当は働いた時間に比例しない収入である点が大きい
  • 予想外に大きかったのは仕事への理解が深まったこと。点呼や記録の意味が分かり、日々のストレスが減った
  • 基礎講習はオンラインで受講できるようになった。会場に3日通う必要はなくなり、スキマ時間で進められる

収入を上げる方法は、体力の外にもあります。時間をかけて積み上げるものなので即効性はありませんが、年齢を重ねても目減りしないのが知識の強みです。

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